商標権侵害―商標的使用

商標権侵害―商標的使用商標の本質的機能は、商品または役務の出所識別機能にありますので、商標が、こうした出所識別機能を果たす態様で用いられていない場合は、商標の「使用」にあたりません。

ここで、標章の使用が商標的使用であるか否かは、個別具体的な諸事情を総合的に評価して判断されます。具体的には、当該標章の使用態様、同種商品についての同業者らの商標の表示方法等の客観的事情のほか、当該標章使用者の主観的意図、すなわち、標章使用者がその標章を表示した目的を併せて総合的に判断されます(福岡地裁飯塚支部判決昭和46年9月17日無体集3巻2号317頁〔巨峰仮処分事件〕、大阪地判昭和51年2月24日無体集8巻1号102頁〔ポパイアンダーシャツ事件〕、東京地判昭和51年10月20日判タ353号245頁〔清水二十八人衆事件〕等参照)。

上記客観的事情については、標章が使用されている商品又は包装、商品又は役務の説明パンフレットや広告宣伝物等に表された全ての情報のほか、取引の実情やその分野における慣習も考慮される。

真正商品の並行輸入

真正商品の並行輸入」とは、外国においてその国の商標権者若しくはその他の権限ある者によって適法に商標を付された商品を我が国における商標権者等の許諾を得ないで輸入することをいいます。
具体的には、海外の高級ブランド品を現地で適法に購入して、日本において日本の総代理店等を通さずに安価で販売するような場合を指します。

消費者からしてみれば同じ商品を安く買えるので並行輸入は良い事のように思われます。しかし、海外高級ブランドや当該ブランドの我が国における総代理店等の立場からすれば、たまったものではありません。そこで商標権を行使することにより並行輸入を阻止できるのかということが問題になってきます。

この点について、最高裁判所は、フレッドペリー事件の判決において、並行輸入が許されるための3要件を以下のように示しております。

【1】真正商品性
当該商標が外国における商標権者または当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること

【2】内外商標権者の実質的同一性
外国における商標権者とわが国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標がわが国の登録商標と同一の出所を表示するものであること

【3】品質管理を行い得る立場にあること
わが国の商標権者が当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品とわが国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価されること
 
上記の3要件を全て満たせば真正商品の並行輸入となり実質的違法性がないとされますが、1つでも要件を欠けば違法となります。
ちなみに上記のフレッドペリー事件においては、商標権者の同意無しに契約地域外で製造されたものであった為、出所表示機能、品質保証機能を害するものであるとして違法であると判旨しています。
また、並行輸入についての判例でフレッドペリー事件以外に注目すべきものではダンロップ事件があります。ダンロップ事件においてはマレーシアからダンロップ商品を輸入した被告を日本における商標権者である住友ゴム株式会社が訴えたものです。この事件においては、「DUNLOP」ブランドはもともと英国における著名ブランドであるが、国内外での営業主体が別個のものであるため、上述した3要件のうち、【2】、【3】の要件を満たさないとして違法としています。
もし並行輸入をする場合は、商品が真正商品であるかはもちろんのこと、我が国における商標権者との営業主体の同一性にも注意が必要であると言えるでしょう。

商標法上の抗弁1-先使用権

商標権の侵害で警告を受けた場合にできることは、分かり易く言うと【1】「ごねる」、【2】「もらう」、【3】「つぶす」、【4】「あきらめる」、の4つがあります。【1】の「ごねる」というのが、抗弁にあたります。商標法上の抗弁は、先使用権(32条)、商標権の効力が及ばない範囲(26条)、準用する特許法104条の3の抗弁等があります。この記事では先使用権について説明させて頂きます。

先使用権は、登録商標の出願前から一定要件下で商標を使用していた場合に主張することができます。

その要件は以下の通りです。
1.当該登録商標の出願前から日本国内において不正競争の目的でなく、登録商標と同一又は類似の商標を指定商品等と同一又は類似の範囲で使用していること
2.出願の際現に、自己の業務に係る商品等を表示するものとして周知であること
3.継続して使用していること

以上の3つの要件を満たす必要があります。

先使用権が規定されているは、本来、このような商標は4条1項10号で拒絶されるべきものですが、過誤登録がされた場合に、無効審判を請求するまでもなく未登録周知商標の使用を認める為です。

また、4条1項10号については、善意に登録を受けた場合には除斥期間(47条)の適用があるので、先使用権は、除斥期間の経過後に特に実益があるものとされています。すなわち、除斥期間は、商標権設定登録の日から5年となっており、5年を超えた段階では無効審判請求はできないので、先使用権の抗弁を主張することで、自己の商標使用を正当化する必要があるのです。

先使用による商標の使用をする権利(第32条)

 先使用による商標の使用をする権利とは、「他人の商標登録出願前から不正競争の目的ではなくその出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標を使用していて、その商標が周知商標になっている場合は、その後継続して使用する限りはその企業努力によって蓄積された信用を既得権として保護しようとするもの」(工業所有権法〔産業財産権法〕逐条解説〔第19版〕)です。
 商標法第32条の趣旨は、過誤登録の場合の救済規定です。第32条の要件に当てはまるような者がいた場合は、当該商標登録出願は、商標法第4条第1項第10号で拒絶されるはずなのですが、過誤登録されてしまった場合は、無効審判を請求したりしなくても、商標の使用を認めようとするものです。商標法第4条第1項第10号の無効理由は除籍期間の対象となっているので、特に無効審判の除籍期間の経過後に、本条の存在がきいてきます。
 「広く認識された」とするのは、相当程度周知でなければ、保護に値する財産的価値がないと考えられるからです。
 また、当該商標の使用の継続が要件とされているのは、長期間使用しなければ、保護すべき信用が減少すると考えられるからです。
 第32条1項の権利は、その業務とともにする場合を除いて移転することができないことになっています。
 第32条2項では、当該登録商標の商標権者又は専用使用権者は、第32条1項の権利者に対して混同防止表示請求ができる旨が規定されています。第32条第1項の権利は、商標権者の意思によらずに発生する権利で、発生後に商標権者の力が及ぶものではないので、このような規定が設けられています。

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