商標権の利用 - 記事一覧

商標権の移転(商標法24条の2)

 商標権の移転については、商標法24条の2で規定されています。旧法下においては、商標権と営業を分離して移転すると出所の混同が生じるとして、商標権の自由譲渡を認めていませんでした。
 しかしながら、商標権は特許権等と同様に財産権であるから、営業と分離しての移転を認めて欲しいとの経済界からの要請が強くありました。
 また、商品の出所の混同の問題についても、消費者は品質に問題がなければ出所はあまり気にしないでしょうし、商標権を譲り受けた者も蓄積された信用を維持するように努力するのが普通でしょうから、自由譲渡を認めたとしても、大きな問題は生じないものと思われます。
 このような事をふまえまして、現行法では商標権の自由譲渡を認めています。
 平成8年の一部改正で、商標権の移転の制限がさらに緩和され、類似関係にある商品・役務に係る商標権の分割移転も可能となりました(24条の2第1項)。類似関係にある商品・役務に係る商標権の分割移転を可能としたのに伴い、商標権の移転に係る混同防止表示請求(24条の4)の規定も作られ、公益的な観点から誤認混同防止対策が講じられています。
 4条2項の適用を受けて商標登録された商標については、4条2項の趣旨を貫徹するため、移転に制限がかせられています(24条の2第2、3項)。
 また、24条の2第4項では、地域団体商標に対して主体要件を定めた趣旨を没却させないように、団体が合併等した場合のような一般承継の場合に限って移転を認めることにしています。
 なお、商標権を移転する際には、特許庁に対して移転登録申請書を提出する必要があります。

商標権の分割

 商標法第24条では、指定商品又は指定役務が二以上あるときは、指定商品又は指定役務ごとに商標権を分割できることが規定されています。
 平成8年の商標法の一部改正前は、他人への移転を伴わなければ、商標権の分割ができませんでしたが、商標法条約では、各締約国に商標権の分割を義務付けていますので、それにあわせるために、他人への移転を伴わなくても商標権が分割できるようになりました。
 例えば、指定商品の一部について異議申立や審判請求があった場合等については、申立や審判にかかる指定商品等とそれ以外の指定商品等を分割することにより、権利の有効性について特に問題がない部分については安心して商標を使用することができます。
 また、譲渡交渉やライセンス交渉においても、登録商標の指定商品又は指定役務の全てについて相手方が使用したいと思っているとは限らないので、このような場合においても商標権の分割というのは有効な手段と言えると思います。
 商標権の分割は、商標権の発生から消滅するまでの期間については、特に制限なくいつでもおこなうことができますが、商標権の消滅後においては、「第46条第2項〔商標登録の無効の審判〕の審判の請求があつたときは、その事件が審判、再審又は訴訟に係属している場合に限り、することができる。」(商標法第24条第2項)とされています。
 商標権消滅後においても一定期間は過去の商標権侵害について損害賠償請求訴訟ができますので、損害賠償請求訴訟を提起した際に、相手方から無効審判を請求されたような場合には、無効審判にかかる指定商品等とそれ以外の部分を分割して、商標権に関する審判請求不成立の審決を早く確定させ、その部分についてのみに権利行使を早急にすすめることができます。

担保的利用

担保的利用

 商標権も知的財産権の一種であるので、譲渡担保や質権を設定することができます。知的財産権担保融資は、ベンチャー企業の資金調達の一つの手段として注目を浴びています。
 商標権に対する担保の設定は、質権または譲渡担保によるのが一般的です。
 譲渡担保を設定する場合は、特許庁に対し、譲渡担保による商標権移転登録申請書を提出することになり、名義上、商標権は、担保権者に移転することになり、担保権者が直接的に商標権を管理することになりますので、債務者によっては、商標権を移転するということに抵抗感があったり、事業計画上不都合があったりする場合があります。
 質権も設定することができますが、商標原簿への登録が効力発生要件となります(商標法34条4項、特許法98条1項3号)。具体的には、特許庁に対して、質権設定登録申請書を提出する必要があります。
 質権者は、契約で別段の定めをした場合を除き、指定商品・指定役務に対して当該登録商標の使用をすることはできません。
 これは、商標を使用するには、相当の設備等が必要となりますので、質権者が使用の権能を有するよりも、質権設定者が使用の権能を有するほうが望ましいと考えられるからです。
 また、商標権等の知的財産権の価値評価は非常に難しく、流動性の高い知的財産権の市場もないため、担保的利用は日本においてはあまり活発に行われていないのが現状です。

通常使用権と専用使用権について

 子会社や関連会社に商標を使わせたいというとき、商標には専用使用権と、通常使用権というものがあります。
 通常使用権というのは、特許庁への登録を必要とせず、契約が成立すれば、通常使用権者は商標を使用することができます。また通常使用権の契約をしても、商標権者は自らその商標を使用することができます。
 これに対し、専用使用権というのは、専用使用権者のみがその商標を使えるとするもので、専用使用権が設定登録されれば、たとえ商標権者であっても、商標を使用することができないという非常に強力な権利で、差止請求権や損害賠償請求権の行使も可能となっております。使用権については、場所や指定商品等を制限して設定することもできるので有効に活用すればあなたのビジネスに役立つことでしょう。

専用使用権(商標法第30条)について

 専用使用権とは、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標を独占的に使用することができる権利です(商標法第30条第2項)。専用使用権を設定した後は、たとえ商標権者であっても、専用使用権を設定した範囲においては登録商標を使用することはできませんので、この点を考慮の上、専用使用権にするか、通常使用権にするかを検討する必要があります。専用使用権は、登録が効力発生要件となっていて印紙代が1件あたり30,000円かかります。弁護士や弁理士に依頼する場合は、別途代理人費用がかかります。
 専用使用権の制度趣旨としては、商標に信用が化体すれば、その商標を使用したいと思う者があらわれたりする場合や、また、商標権者側からしても、資本関係等で密接な関係にある者に商標を使用させたいという場合もありうるので商標権を譲渡する以外の方法で使用できるようにする制度が必要であろうというものです。
 よくある例としては、商標の審査においては、類似する他人の先行商標が存在していた場合は拒絶されるので、複数のグループ企業を持つ大企業などでは、親会社の出願が子会社の商標を引用して拒絶されたり、子会社の出願が親会社の商標を引用されて拒絶されたりすることがありますので、手続の便宜上、親会社が一括して商標権を取得し、子会社に専用使用権を設定するような場合です。
 条文上「設定行為で定めた範囲内」とあるので、内容、時間、地域等を制限する事もできます。例えば、東北一円とか、2016年1月1日から1年とかそういったこともできます。
 専用使用権は移転することができますが、移転ができるのは、「商標権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合」に限られます(商標法第30条第3項)。これは、専用使用権を設定するのは商標権者と専用使用権者との信頼関係に基づくものであることが通常で、またライセンス料を1個当たり〇〇円のような形で設定している場合等は、専用使用権者がどの程度の資本をもって商標を使用するかにより大きくライセンス収入等が変わってくると考えられますので、移転を上述の場合のみに限っている訳です。
 同様のことが、専用使用権についての質権の設定や通常使用権の許諾についてもいえますので、これらについても商標権者の承諾が必要になります(商標法第30条第4項)。

通常使用権(第31条)について

 商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができ、(商標法第31条第1項)、通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有します(商標法第31条第2項)。 
 通常使用権については、同一範囲について二以上の者に設定することができますし、通常使用権を許諾した後においても、商標権者自身も商標を使用することができます。
 また、専用使用権と同様に設定範囲について、時間的、内容的、地域的制限をすることができます。
 通常使用権の移転についても制限があり、商標権者(専用使用権についての通常使用権にあっては、商標権者及び専用使用権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限られます。移転について制限が設けられているのは、誰が商標を使用するかにより、商標権者の利益が大きく変わってくることなどが理由です。
 また商標の通常使用権については、登録対抗制度が維持されておりますので、通常使用権の登録をしておけば、通常使用権の登録後に商標権や専用使用権の移転や、新たな専用使用権の設定登録がなされても通常使用権者としての地位は守られます。
 通常使用権者は、商標権者(専用使用権についての通常使用権にあつては、商標権者及び専用使用権者)の承諾を得た場合は、その通常使用権について質権を設定することができます。
 通常使用権の放棄については、質権者がいる場合は、その承諾を受けた場合に限り、その通常使用権を放棄することができます。質権者に放棄によって不利益が生じないようにするためです。

無効審判の請求登録前の使用による商標の使用をする権利(第33条)

 本条は、過誤により商標登録された商標が無効審判で無効になった場合の保護規定です。
 無効理由があるにも関わらず商標が過誤登録され、そのことを商標権者も知らずに登録された商標を使用し、使用の結果、周知性を獲得した場合は、商標権者が企業努力によって獲得した信頼を破壊するのは、酷ではないかとの見地から、その蓄積された信用を保護しましょうというものです。
 この第33条の規定は、中用権と呼ばれたりもしています。
 この第33条の権利は、業務とともにする承継も認められています。
 また無効にされた商標権に対して、専用使用権者、対抗要件をもっている通常使用権者がいた場合は、これらの者についても中用権を認めています(第33条第1項第3号)。
 中用権については、第32条、第32条の2の先使用権と異なり、当該商標権者、専用使用権者は、対価の要求ができます。先使用権は既得権の保護ですが、中用権は、本来無権利者になる者を救済する規定ですので、対価の請求をできるようになっています(第33条第2項)。
 また当該商標権者、専用使用権者は、中用権者に対して混同防止表示請求をすることができます。

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