追加コラム:相続手続をすることは法律的な義務か?

結論から申し上げますと法的義務の場合と義務ではないものがあります。例えば死亡届の提出は届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡があったときは、その事実を知った日から3箇月以内)に、これをしなければいけません(戸籍法86条)。
あと亡くなられた方から相続財産を受け継いだ相続人がいた場合はその相続人が相続人がいなくても包括受遺者(遺言により財産処分対象を特定せず、分数割合で遺贈を受けた者)がいた場合は包括受遺者が故人の確定申告(準確定申告手続き)をしなければならない場合があります。なお包括受遺者もいなかった場合は相続財産管理人が準確定申告手続きを行うことになります。
一方、法的義務ではない手続きに関しましては放置しておくのも可能です。

では相続手続きは放っておいても不利益はないのでしょうか?
例えば正当な理由なく死亡届の届出が遅れた場合、3万円以下の過料になります。また準確定申告手続きを怠った場合延滞税や無申告加算税が科される場合があります。つまり『義務である相続手続きを怠ると不利益を被る可能性があります。しかし、そうではない相続手続きであれば一時的には不利益はありません』。
ただし、『後になってより面倒な手続きをしなければなったり、自分の遺産が他の相続人に勝手に使われてしまったり、必要な時でも遺産の利用や処分ができない場合が起こります』。
ですのでどの相続手続きもできるだけ早めに行うことをお勧めいたします。

知っておきたい遺言相続 目次

(1)相続とは何か

相続とは被相続人(亡くなった方)の財産を相続人(財産を受け継ぐ人)が受け継ぐことをいいます。相続は人の死亡もしくは死亡したとみなされた場合(失踪宣告に開始します。失踪宣告はご存じない方がいらっしゃると思うのでご説明します。

失踪宣告の趣旨不在者を生存者扱いすれば、その者をめぐる財産・身分関係などの法律関係が不明確のままであり社会関係や経済関係が混乱します。そこで、生死不明が一定の条件の下でその不在者を死亡した者とみなし、その者をめぐる法律関係を処理しようとする失踪宣告が民法30条で定められたわけです。 失踪宣告は普通失踪(民法30条1項)と特別失踪(民法30条2項)の2種類があります。

普通失踪とは不在者の生死が何らかの事情で7年所在が不明なとき利害関係人からの請求で家庭裁判所が宣告するものです。
特別失踪とは不在者が危難つまり命に関わるような災難(自然災害・事故・戦争など)にあって生死が危難にあってから1年以上不明な時に利害関係人の請求により家庭裁判所が宣告するものです。

失踪宣告が認められればその不在者は死亡したとみなされますから相続が開始されたり死亡保険金請求ができるようになったりします。不在者である失踪者がその後生きていた場合や失踪宣告で認められた死亡時間と異なる時に死亡したとの証明があったときは本人や利害関係人は家庭裁判所に失踪宣告の取消を求めることもできます(民法32条1項)

(2)相続財産の範囲について

相続の対象となる財産を相続財産といいます。相続人にとってプラスになる財産である積極財産マイナスになる財産である消極財産の2つに分かれます。主なものを挙げます。

積極財産 土地・建物等の不動産、現金・預金・小切手・、株式・社債・手形などの証券
自動車・家財・貴金属・ゴルフやリゾートなどの会員権・骨董品・貸付金・売掛金、借地・借家権など
消極財産 借入金・税金・医療費・買掛金・住宅ローン、被相続人がなった保証人の地位

香典や弔慰金などは相続財産ではありません。なお遺産と相続財産は異なります。遺産とは
(1)相続財産
(2)みなし相続財産(相続財産ではないが相続税の課税対象になるもの、たとえば受取人払いの生命保険金・死亡退職金・遺言による債務免除など)
(3)相続財産にならないもの
(4)相続財産から差し引けるもの
の総称です。相続税は遺産の総額をもとに計算されます。

(3)相続人の範囲について

法律上相続人になることができる人(法定相続人)・その相続順位は次の通りです。

配偶者 常に第1順位です。
第1順位 被相続人の子(胎児もふくまれる)
第2順位 直系尊属『被相続人の父母や祖父母など』親等が近いものほど優先される。
第3順位 被相続人に子がおらず、また直系尊属がいない場合、兄弟姉妹と配偶者が相続人となります。

法定相続人が決まり、被相続人が特に相続分につき指定をしなかった場合は法定相続分に則って分配します。もっとも相続人全員の合意で法定相続分と異なる分配をすることもできます。法定相続分は以下のようになっています。

配偶者と子供が相続人である場合 配偶者1/2 子供(全員で)1/2
配偶者と直系尊属が相続人である場合 配偶者2/3 直系尊属(全員で)1/3
配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合 配偶者3/4 兄弟姉妹(全員で)1/4

子供、直系尊属、兄弟姉妹が複数いるときは、原則として均等に分けます。父母の一方を同じくする兄弟姉妹『半血兄弟姉妹』は両方を同じくする兄弟の2分の1の相続分になります。なお非嫡出子(婚姻した配偶者以外から生まれた子)は嫡出子の半分の相続分でしたが平成25年9月の婚外子(非嫡出子)に対する相続差別を違憲とする最高裁大法廷の全員一致決定を承けて、同年12月に当該差別規定を削除する民法改正がなされた結果、嫡出子と非嫡出子の相続分は平等になりました。半血兄弟の相続分に変更はありませんので混同されないようご注意ください。

(4)法定相続人でも相続人になれなくなる場合

法定相続人であっても相続人になれなくなる場合があります。(1)相続欠格(2)相続廃除の二つの場合です。以下説明します。

1.相続欠格について参照:民法 第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。

故意に被相続人又は相続について先順位もしくは同順位にある者に対する殺人罪か殺人未遂罪で刑に処せられた者(つまり傷害致死罪で罰せられても相続欠格にはなりません。実刑ではなく執行猶予の場合も対象となりません。)
被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別(判断能力)がないときや殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であったときは除きます。
詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

2.相続廃除について

被相続人が、被相続人が相続人から虐待・重大な侮辱・その他著しい非行が合った場合に家庭裁判所に「推定相続人廃除調停・推定相続人廃除審判申立て」をすることにより推定相続人の持っている遺留分を含む相続権を剥奪する制度です(民法892条)。

「虐待」とは、被相続人の心身に重大な苦痛を与えることをいい、たとえ被相続人に日ごろから暴行や脅迫を繰り返すとかが考えられます。「重大な侮辱」とは、被相続人の名誉・自尊心を著しく害することをいいます。単なるからかいなどではなく人格を著しく傷つけるくらいの侮辱である必要があります。「著しい非行」とは、虐待や侮辱と同程度の重大な非行である必要があります。ギャンブル狂で家にお金をまったく入れないとか重大な犯罪を犯し刑罰に処せられたとかであり、たんなる素行不良は含みません。

東京高裁昭和35年の判決では『その他の著しい非行」も、それは被相続人に対するものであることを要し、単に素行不良であるとか、他人に対して非行をしたという如きことは、これを含まないものと解すべく、また、被相続人に対する非行であっても、それが被相続人が誘発したものであるとか、解すべきである。」と判示しています。

ただ実際は相続廃除が認められる事例はさほど多くないのが現状です。

(5)法定相続人が欠ける場合

法定相続人が一部または全部いない場合(全員ないし一部いない時)はどのように財産が引き継がれるのでしょうか。

1.代襲相続による処理を伴った相続代襲相続とは相続開始以前に相続人の死亡や廃除・相続欠格のため相続権を失った場合、そのものの直系卑属(子や孫、養子)がそのものの相続分を代わりに相続する制度です。代襲相続できるのは相続人の子や孫・兄弟姉妹です。子は相続人の直系尊属でありかつ被相続人の直系卑属である必要があります。ただ養子縁組前に生まれていた子は、養親との間で法定血族関係を生じず(大判昭7.5.11)、養親の直系卑属に当たらないこととなるため代襲相続はできません。なお相続人が相続を放棄した場合は代襲相続はできません。

2.再代襲相続を伴った相続再代襲相続とは代襲相続できるものが死亡した場合にそのものの子(養子も含まれます)が代わりに相続する制度をいいます。相続人が子の場合は何代も再代襲できます。兄弟姉妹につきましてはちょっとややこしいのですが、昭和55年12月31日以前に開始された相続については,民法に兄弟姉妹が相続人となる場合であっても再代襲相続されるという規定があったため、兄弟姉妹が相続人の場合でも再代襲相続が開始されます。他方,昭和56年1月1日以降に開始された相続については,兄弟姉妹が相続人の場合には再代襲相続は認められません。


3.(1)(2)もできないとき第1ステージ 相続財産管理人を選任します。
被相続人の債権者、特別縁故者、検察官が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を請求します。そして家庭裁判所は相続財産管理人を選任し管理人公告をします。相続財産管理人は、相続財産を管理及び債権申し出の公告を行い、債権者や遺贈を受けた者(受遺者)がいれば、支払いを行います。まだ相続人が不明の時は、家庭裁判所は相続人を探すための公告をします。相続人が現れなければ、相続人の不存在が確定することになります。

第2ステージ 特別縁故者による財産分与の申し立て
特別縁故者とは相続人ではないが、被相続人と特別の縁故関係にあった者をいいます。特別の縁故とは被相続人と生計を同じくしていた者で被相続人の療養看護に努めた者やその他被相続人と特別の関係があった者をいいます。財産分与の申し立て(相続人捜査の期間満了後3ヶ月以内)を行った者がいれば、家庭裁判所は特別縁故者の一切の事情を考慮して、その分与の内容程度を決めます。    
     
第3ステージ 共有者への帰属
相続財産に共有物がある(共有者の一人が死亡した)場合、亡くなった者の共有持分は他の共有者に帰属します。

第4ステージ 国庫への帰属
共有者も特別縁故者もいない場合には、相続財産管理人には家庭裁判所の審判により報酬が決められ、相続財産の中から支払われます。そして残った財産は国庫に帰属します。

簡単にまとめますと
1.まずは相続人がいれば相続人が相続。
2.相続人が全員確定しなければ代襲相続あるいは再代襲相続できる人がいればその人が相続。
3.(1)(2)がだめならば相続財産管理人に相続財産を管理してもらいつつ特別縁故者や共有者を探し、それでも見つからない場合は国の財産になる。

このような流れになります。

(6)遺留分について

遺留分とは、被遺言者の遺言によっても害されない、相続に関して相続人に保障されている遺産の一部のことです。遺留分の趣旨は被相続人の死後の遺族の生活保障と被相続人の財産には相続人の潜在的な持分がありこれを具体化し評価することです。なお法定相続人のうち兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺留分の割合(民法1028条参照)直系尊属のみが相続人の場合:被相続人の相続財産の3分の1
その他:被相続人の相続財産の2分の1

遺留分の算定方法について計算式は遺留分算定の基礎となる財産×各相続人の遺留分率で計算します。遺留分算定の基礎となる財産とは、下記1~4を足し、債務を引き残った額をいいます。

1.相続開始時に持っていた財産
2.相続開始前1年以内に贈与した財産
3.相続開始前1年以上前であっても当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って行った贈与
4.婚姻・養子縁組・生計の資本として贈与された財産

遺留分減殺請求遺留分を侵害する遺贈や贈与は直ちに無効にはなりません。遺留分権利者が遺留分侵害額請求権を行使する必要があります。

遺留分減殺請求の時効遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から、1年間行使しないときは、時効によって消滅します(1048条前段)。相続開始の時より10年を経過したときも同様です(1048条後段)。1042条前段の「減殺する贈与・遺贈があったことを知った時」とは、贈与・遺贈があったことを知り、かつ、それが遺留分を侵害して減殺できるものであることを知った時をいうとするのが判例です。

遺留分の放棄遺留分は放棄できます。ただ家庭裁判所の許可が必要です(遺留分放棄の許可の審判)。相続放棄と違い相続開始前の遺留分放棄が可能です。なお相続放棄は相続開始を知ってから3ヶ月以内であり、相続が開始してからでないと放棄できません。

(7)相続の承認・放棄とは

相続の承認・放棄について順を追ってご説明いたします。相続の承認とは相続財産を受け継ぐことを認めるということです。相続の承認は単純承認と限定承認の2つに分かれます。単純承認とは相続人にとって利益になる財産かどうか問わず一切を相続することです。限定承認は遺産を引き継いだ範囲内で借入金のようなマイナスの財産を認めるということです。つまり自分の財産からは受け継いだ借入金を払わなくてよくなるということです。

限定承認は相続人が全員共同で行う必要があります。また相続開始を知ったときから3ヶ月以内に遺産の財産目録を作成して家庭裁判所に提出し限定承認をするとの申し出をする必要があります。債権者への公告など手間と時間がかかりますのであまり利用されていないのが現状です。

相続の放棄とはまったく財産を受け継がないことです。相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出する必要があります。

(8)遺言の方式

遺言の種類遺言の方式には、普通方式と、特別方式の2つがあります。

普通方式の遺言普通方式の遺言には、3種類があります。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言

<自筆証書遺言>
自分で書いて自分で管理する遺言です。ワープロ書きや代筆などは無効です。日付を含めた全文を自分の手で書かなければなりません。自署し印鑑を押しましょう。印鑑は実印が望ましいです。
 
<公正証書遺言>
遺言の作成に法律の専門家である公証人と2名以上の証人が必要な遺言です。法式不備などで遺言書が無効になる可能性は通常ありません。また、作成後も遺言書の原本を公証人が保管するため、偽造や改ざん、紛失などの恐れもありません。
遺言書が本人の意思であることは公証人によって確認されているので、検認の手続きは不要です。証人には法定要件があり、以下のものが証人になった場合、遺言書は無効です。
1.未成年者(974条1号)
2.推定相続人、受遺者およびその配偶者ならびに直系血族(同条2号)
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び雇い人(同条3号)
 
<秘密証書遺言>
自分で作成し、署名、押印し封印した遺言書を公証してもらいます。公正証書遺言のように、内容を知られることなく、秘密を保つことができます。また、2名の証人の立会いのもとに公証しますので、遺言の存在を明確にできます。
遺言書はただ公証人が関与しないので、方式不備などにより遺言が無効になる危険があります。ワープロや代筆による作成が可能です。

特別方式の遺言特別方式は危急時遺言と隔絶地遺言があります。それぞれがさらに2つに分けられ、危急時遺言には一般危急時遺言、難船危急時遺言があり、隔絶地遺言には一般隔絶地遺言、船舶隔絶地遺言があります。
これらの方式は、遺言者が普通方式による遺言をできるようになったときから 6ヶ月間生存していた場合、効力はなくなります。

(9)予備的遺言のお勧め

初めて聞いた方も多いのではないでしょうか?予備的遺言とはもしもの時を想定した文言を入れた遺言のことです。全財産を妻にあげると遺言をしていても相続以前に奥さんがなくなっているかもしれません。通常ですと遺言は無効になり、再度作り直すはめになります。ですが予備的に相続以前に妻がなくなったら長男に全ての財産を相続させるなどの文言をいれれば再度遺言を作成しないでいいのです。

もし予備的遺言をしていなければ本人が痴呆症になっていたり体が不自由になったとき遺言を作成するのが大変になりますしね。ですから遺言を作成する時は予備的遺言にすることをお勧めします。

(10)葬儀後すべきこと

葬儀後どういうことをする必要があるか主要なものを書いてみたいと思います。

・携帯電話、クレジット契約など各種契約の解約
・生命保険の請求
・世帯主変更届
・証明書の返却
・水道電気賃貸住宅などの名義変更
・不動産をもっている場合は移転登記など
・預貯金の名義変更
・所得税の準確定申告
・遺産分割協議
・相続税の申告と納付
・年金手続き
・家財などの処分
・形見分け
・思い出の品の保管
・健康保険の埋葬料や国民健康保険の葬祭費の請求・・・等

意外にやることが多いものですね。当事務所では相続手続きのお手伝いもさせていただいております。

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