残業代が発生するケース

残業代請求所定労働時間(始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間をひいた時間です。)を超えて働いた場合、労働者は会社に対して残業代の請求をすることができます。労働基準法上は、使用者は、労働者に1週間に40時間を超えて、また、1日8時間を超えて労働をさせてはならないとされ(同法32条)、この規制を超えた労働を「時間外労働」と呼んでいます。

労働者が休日出勤をして、仕事をした場合も労働者は会社に対して残業代の請求をすることができます。労働基準法上、使用者は、労働者に対して、毎週、少なくとも1回の休日を与えなければならないからです(同法35条1項)。

ここで、注意すべきは、労働基準法上、休日については週休2日制が採られてはいないということです。つまり、労働基準法上、「休日労働」とは、週休1日制の法定基準による休日における労働を意味します。したがって、土日週休2日制が採られている会社において、労働者が日曜日に出勤したとしても、土曜日を休んでいる限り、労働基準法上は、休日労働にはなりません。

ただし、1週40時間を超えて、あるいは、1日8時間を超えて労働した部分については、「時間外労働」として残業代の請求をすることが認められます。もっとも、会社は就業規則等で週休2日制のどちらの日も休日労働として、割増賃金を支払う旨を定めていることが多く、この場合、土曜日を休んで、日曜日に出勤した場合にも休日労働として残業代の請求をすることができます。

残業代の割増率

残業代についてですが、通常の労働時間の賃金に割増率を乗じた額を請求することができます。割増率は、以下のとおりです。

時間外労働 25%
休日労働(休日における時間外労働も含む) 35%
深夜労働(午後10時~午前5時) 25%
時間外労働が深夜(午後10時~午前5時)にまで及んだ場合 50%
休日労働が深夜(午後10時~午前5時)にまで及んだ場合 60%
1ヶ月60時間を超える労働 50%

残業代支払いに関する中小企業の特例

上記の残業代に関する割増率は、中小企業には当分の間適用されないことになっています。ここでいう「中小企業」とは、以下のとおりです。

小売業 資本金額5,000円以下または常時使用する労働者の数が50人以下
サービス業 資本金額5,000万円以下または常時使用する労働者の数が100人以下
卸売業 資本金額が1億円以下または常時使用する労働者の数が100人以下
その他の事業 資本金額が3億円以下または常時使用する労働者の数が300人以下

管理監督者の残業代請求

労働者(原告)が残業代請求をした場合、会社が反論して、原告は管理監督者(労働基準法41条2号)にあたるとして、残業代の支払を拒むことがあります。労働者が労働基準法41条2号所定の管理監督者にあたる場合、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外されます。すなわち、労働者が労働基準法41条2号所定の管理監督者に該当する場合、その労働者が「時間外労働」「休日労働」をしても会社に対して残業代を請求することはできません。

労働基準法41条2号の管理監督者とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものとされます(昭和22年9月13日発基17号)。

この定義は、いわゆるラインの管理職を想定してのものでしたが、近年の企業において増加しているスタッフ管理職についても、ラインの管理職と同格以上に位置づけられている者であって、「経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当する者」は管理監督者とされます。

管理監督者に該当すると判断されるための要件は、以下の3つです。
(1)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること
(2)自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
(3)一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること

(1)~(3)の要件の判断要素は、以下のようなものと考えられています(平成20年9月9日基発0909001号)。

(1)について<1>採用
店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。

<2>解雇
店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。

<3>人事考課
人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。

<4>労働時間の管理
店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。

(2)について<1>遅刻、早退等に関する取扱い
遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。ただし、管理監督者であっても過重労働による健康被害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはなりません。

<2>労働時間に関する裁量
営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となります。

<3>部下の勤務態様との相違
管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となります。

(3)について<1>基本給、役職手当等の優遇措置
基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となります。

<2>支払われた賃金の総額
一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となります。

<3>時間単価
実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となります。

残業代請求の時効

残業代請求の時効は2年です。したがって、会社は労働者の2年より前の未払い残業代の支払につき消滅時効を援用することで拒むことができてしまいます。 もっとも、残業代請求の時効期間が過ぎてしまった場合でも、会社と交渉してみることで、会社が労働者に対して残業代未払いがあることを認めれば、消滅時効援用が許されなくなります。

また、使用者に対する不法行為に基づく損害賠償請求として、時効消滅した残業代の請求が認められた事例もあります(広島高裁判決平成19.9.4判タ1259号262頁)。退職した後であっても、労働者は遡って2年間の残業代を請求することができます。

未払い残業代の遅延損害金は、通常、年6%ですが、退職時に未払い残業代があった場合には、労働者は退職日の翌日から支払をする日までの期間について、年14.6%の遅延損害金を請求することができます(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。

使用者が残業代を支払わなかった場合、裁判所は、労働者の請求により、その未払と同額の付加金の支払を命じることができますから、労働者としては、これも請求することができます。ただし、付加金の支払を命じるかどうかは裁判所の裁量になりますから、未払いの事情も勘案された上で、その一部のみが認められたり、全く認められないこともあります。

付加金の請求も違反のあった時から2年以内にする必要があります。付加金に対しては判決が確定した日の翌日から年5%の遅延損害金を請求できます。

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