労働災害(労災)とは

労災労働災害(労災)とは、労働過程に伴って発生する労働者自身が被る災害をいいます。労災保険給付には、主に「業務災害に関する保険給付」、「通勤災害に関する保険給付」があります。

業務災害に関する保険給付

業務災害」とは、労働者の「業務上」の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます(労働者災害補償保険法(労災保法)7条1項1号)。

「業務上」といえるためには、当該労働者の業務と負傷等の結果との間に、当該業務に内在または随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が必要です。そして、「業務上」といえるための判断基準は、業務上の事故による場合と、業務上の疾病による場合で以下のとおりの相違があります。

業務上の事故による場合

ア.業務上の事故による場合は、以下(1)・(2)に該当する必要があります。
(1)労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で(業務遂行性)
(2)業務又は業務行為を含めて「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること」に伴う危険が現実化したものと経験則上認められるもの(業務起因性)

イ.(1)については、事業場内での休憩中や始業前・就業後の事業場内での災害、あるいは事業場外での労働や出張中の災害であっても認められます。他方、(1)に該当する場合でも、それが地震や落雷等の自然現象による場合や、自動車が飛び込んできたなどの外部の力が働いた場合、あるいは飲酒しながらの作業をしていたなど本人の規律違反行為による場合等は否定されます。ただし、自然現象であっても、隣接の工場が爆発するなどの定型的に伴う危険であれば、業務起因性が認められています。

(2)については、被災労働者の救済を図るという労災保法の性格・目的からは要件が厳格にすぎるといえますが、事実上、業務起因性は広い範囲で認められています。しかし、過労死、頚肩腕障害、腰痛等の業務起因性が明白とはいえない傷病の場合には、使用者もその業務起因性を否定することが多く、監督署も容易には業務起因性を認めない傾向にあるようです。

業務上の疾病による場合

労基法75条2項・同規則35条、別表第1の2において、職業病の類型が有害因子ごとに列挙されています。例えば、以下(1)ないし(5)等に該当する疾病については、原則として業務上の疾病と認められますし、列挙されていない疾病も業務起因性を認定できる限りは、業務上の疾病とされます。

(1)災害性腰痛等の業務上の負傷に起因する疾病
(2)暑熱な場所における業務による熱中症等の物理的因子による一定の疾病
(3)粉塵を飛散する場所における業務による肺症またはじん肺合併症
(4)空気中の酸素濃度の低い場所における業務による酸素欠乏症
(5)長期間にわたる業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、狭心症、心停止等

通勤災害に関する保険給付

通勤災害とは、労働者の「通勤」による負傷、疾病、障害又は死亡をいいます(労災保法7条1項2号)。

ここでいう「通勤」とは、労働者が、就業に関し、<1>住居と就業の場所との間の往復、<2>就業の場所から他の就業の場所への移動、<3><1>の往復に先行または後続する住居間の移動を、合理的な経路および方法により行うことをいい、業務の性質を有するものは除かれます(労災保7条2項)。

労働者が上記<1>ないし<3>の移動の経路を逸脱または移動を中断した場合は、当該逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」となりません。ただし、それが日用品の購入、職業能力開発のための受講、選挙権の行使、病院での診療等のための最小限度のものである場合は、逸脱、中断の間を除き「通勤」とされます(同条3項、同規則8条)。

保険給付の手続

1.保険給付の支払請求権補償の給付を受けるためには、被災労働者やその遺族が、補償給付の請求書を労働基準監督署に提出し、業務上の負傷、疾病、障害又は死亡であると認定されて、監督署長の給付決定を受けなければなりません。監督署長の給付決定がなされて初めて、被災労働者またはその遺族は政府に対し具体的な保険給付の支払請求権を取得します。

2.不服申立の方法業務外と認定された場合や、業務上と認定されても給付内容に不服がある場合には、各都道府県労働局におかれている労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を、審査結果に対して不服がある場合は、更に厚生労働大臣の所轄のもとにある労働保険審査会に再審査請求を行うことができます。

また、労働保険審査会の判断に不服があったり、審査官が審査請求から3カ月以内に判断しない場合、不支給処分の取消訴訟を裁判所に起こすことが可能です。

使用者に対する損害賠償請求

使用者の義務違反によって労災が生じた場合、労災補償や労災保険給付の価額の限度をこえる損害については、使用者は債務不履行責任あるいは不法行為責任に基づく損害賠償責任を免れることができません。これを、労災補償制度と損害賠償制度の併存主義といいます。

(1)債務不履行責任使用者が、労働契約上負っている労働者の生命・身体・健康を保護すべき義務(労働契約法5条:安全配慮義務)に反して労災を発生させた場合、使用者は被災労働者またはその遺族に対して、債務不履行責任に基づく損害賠償義務を負います(民法415条)。

最高裁は、安全配慮義務を、使用者が事業遂行に用いる物的施設(設備)および人的組織の管理を十全に行う義務と把握しています。そして、<1>宿直中の労働者が盗賊に刺殺された事案において、盗賊新入防止の物的設備を十分に施し、かつ宿直員の安全教育を行う等の義務の不履行があったとして安全配慮義務違反を認めたケースや、<2>長時間労働に従事する労働者がうつ病に罹患して自殺した事案において、同労働者の業務量の適切な調整等を行う義務があったとして安全配慮義務違反を認めたケース等があります。

(2)不法行為責任不法行為を定めた法律の要件にあたる事実が使用者側にある場合には、使用者は不法行為責任に基づく損害賠償義務を負います。不法行為責任は、以下3つのパターンが考えられます。

1.使用者の故意過失により労災を発生させた場合、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)
2.使用者の雇っている者の故意過失により労災を発生させた場合、使用者責任に基づく損害賠償請求(同法715条)
3.土地工作物の設置・保存の瑕疵により労災を発生させた場合、工作物責任に基づく損害賠償請求(同法717条)

第三者に対する損害賠償請求

労働災害が労働契約上の使用者以外の第三者の故意・過失によって、または第三者の所有または占有の瑕疵によって惹起された場合は、被災労働者やその遺族は、第三者に対し不法行為責任または工作物責任を追及することができます。また、末端下請労働者が労災をうけた場合における元請け企業あるいは中間下請企業の責任や、社外労働者の労災における受入企業の責任がよく問題となります。

裁判例の多くは、下請労働者または社外労働者が元請企業または受入企業から作業場所、設備、器具類の提供を受け、その指揮監督下に作業を行っているという実態を重視し、それら企業も下請労働者に対して労働契約上の安全配慮義務と同様の義務を負うとして、義務違反による損害賠償責任を認めていました。そして、最高裁も、元請人の安全配慮義務違反は雇用関係ないしこれに準ずる法律関係上の債務不履行であると判示するに至りました。

賠償すべき損害

債務不履行あるいは不法行為により賠償すべき損害は、財産的損害と精神的損害に分けられます。

(1)財産的損害財産的損害は、財産を侵害されたときに起こる損害のことで、さらに積極的損害消極的損害に分けられます。

ア.積極的損害積極的損害とは、使用者の債務不履行または不法行為があったために出費することになった費用(積極的に財産を失わざるをえなかった場合の損害)をいいます。例えば、治療費、入院費、付添費、通院に必要な交通費、葬儀費などがこれにあたります。

イ.消極的損害消極的損害とは、その債務不履行または不法行為の事実がなければ得たであろうと思われる利益をいいます。そのうちの多くを占める「逸失利益」とは、労働者が労災にあわなければ将来得たであろう利益をいいます。死亡の場合は、労働者が生きて働けば得られたであろう全収入から、その間の生活費を差し引いた額を出し、現時点で一時に前払いを受けるため中間利息を控除した額が慰謝料となります。

(2)精神的損害精神的損害とは、具体的には苦痛・悲しみのことをいい、精神的損害に対する賠償を「慰謝料」といいます。労働者本人が死亡した場合はもちろん、死亡していな場合でもその障害の程度によっては、配偶者、親、子供などの近親者は慰謝料を請求することができます。裁判例では、被害者が負った重い後遺障害によって被害者の母親が生命侵害にも等しい精神的苦痛を受けた事例で、慰謝料請求を認めたものがあります。

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